債務整理の事件処理・報酬・業務広告に関する規則・指針等に反する司法書士事務所による被害が起きていることを真摯に受け止め、適正な債務整理の相談体制を構築する会長声明

1,大量広告事務所による債務整理広告

本年2月21日付NHKの報道『「借金がなくなる!?」誇大なネット広告でトラブル相次ぐ』によると、「借金全額免除!?」「国が認めた借金救済制度」などというインターネット上の誇大・虚偽広告により全国から債務整理の依頼者を集める司法書士・弁護士事務所による被害が拡大している。

また、「お金が戻ります」「過払い金を取り戻しましょう」というような過払い金返還請求依頼を全国から集めるための広告(チラシ、インターネット、テレビ、ラジオ)を大量に行う事務所も以前より存在しており、こういった事務所による「過払いでなく債務が残っている方」に関する被害も存在している。

このような、大量の広告によって全国から債務整理等の依頼を受ける事務所(以下、「大量広告事務所」とする)が市民生活に悪影響を与えている。


2,大量広告事務所による消費者被害

当会会員が被害者から相談を受け、事件処理に当たった結果、次のような実態が明らかになっている。


(1)虚偽広告

大量広告事務所は、上記のように「借金全額免除」「借金が減額される」というような広告によって集客を行っている。しかしながら、後述のとおり、大量広告事務所は借金が免除又は減額される破産・再生手続の申立てをしない。そのため、借金が減額されることはほぼなく、虚偽広告である。また、「国が認めた借金救済制度」などというあたかも特例的な制度があるかのようにうたい、集客を行っている。


(2)依頼者と面談をしない

大量広告事務所では、司法書士・弁護士が、依頼者と一切面談を行わないケースが多いが、そもそも日本司法書士会連合会においては「債務整理事件の処理に関する指針」によって面談すべきとしており、日本弁護士連合会では「債務整理事件処理の規律を定める規程」(以下、「規程」という。)により面談義務を定めており、これらに反している。

そもそも、債務整理の大きな役割としては、依頼者が経済的困窮から脱却し、生活再建を図る点にある。

生活再建にむけた援助や助言をするためには、依頼者の状況や考え方等を正確に把握する必要がある。また、状況に応じて、依頼者の地元での就労支援や福祉的支援(生活保護等)、居住支援に繋げるためにも、依頼者の地元の状況を知悉している者による直接面談が必須であるにもかかわらず、面談が行われないために、充分な支援が行われず、依頼者の経済的更生を阻害している。


(3)杜撰な債務整理

債務整理は、当然ながら、任意整理、再生、破産などいくつか選びうる解決方法の中から、依頼者の負債額や収支状況、財産の多寡等に応じて適切な方法を選択する必要がある。

通常、支払条件を変更すれば借金を支払い続けることが可能であり、完済できるというケースでは任意整理を選択する。支払い条件を変更しても借金の問題を解決できない深刻な状況のときには債務が減額される再生や債務の支払いが免除される破産を選択する。

大量広告事務所は、全国から集客し大量かつ機械的に事件処理を行うことを可能とするため、依頼者の事情の聴取もそこそこに、任意整理しかしない。任意整理と比べて、裁判所が関与する再生や破産は事務処理が相当煩雑であり、機械的かつ大量な事件処理ができないためと思われる。

また、大量広告事務所は、深刻な状況にあり再生や破産を選ぶことが適切だったはずの依頼者さえも任意整理にしてしまうため、より適切な他の解決方法があることについては説明すらしないケースが多い。

結果、そのような依頼者は、債務整理の依頼後も、毎月不相応に多額の返済を強いられた後、まもなく返済に行き詰まることになる。

専門家である司法書士・弁護士に債務整理を依頼したはずなのに依頼者の借金の問題が解決せず、結局は依頼した意味がなかったことになる。


(4)高額な報酬

日本司法書士会連合会では「債務整理事件における報酬に関する指針」において任意整理事件の定額報酬の上限を債権者一人当たり5万円と定めており、日本弁護士連合会では「規程」において任意整理のうち非事業者等任意整理事件における解決報酬金の上限を債権者一人当たり5万円と定めているが、大量広告事務所においてはこの金額をはるかに超え、1社あたり10万円を超える事務所も存在する。

また、司法書士・弁護士が途中で手続きを辞任した場合に、それまで依頼者から受け取った多額の着手金について依頼者に一切返還しないというトラブルも存在している。


3,当会として

大量広告事務所は、主に大都市に事務所を構えており、長野県を含む、地方で借金に苦しむ方を食い物にしている。言語道断であり、許されるべきことではない。

そこで、当会としては、これらの被害が我々司法書士によって惹起されていることを真摯に受け止め、適正な債務整理の相談体制を構築すべく、下記3点を行うことを宣言する。


(1)大量広告事務所による被害を食い止めるため、日本司法書士会連合会等と連携して、職務・報酬に関する規程の制定を行う。

(2)債務整理は特別なことではなく、「債務整理は地元の法律家に」安心して依頼していただけることを、県民に周知を図る。

(3)借金で苦しむ県民から、当会所属の司法書士が依頼を受けることができるよう、債務整理に携わる司法書士を可視化し、県内どこからでも債務整理の相談や執務を依頼いただけるように体制の整備を行う。


                                          令和6年7月10日

                                          長野県司法書士会

                                          会長 小林 雅希